日本の祭りレポート
たのもさん
広島県・宮島は原始宗教のなごりで永く島全体が「神の島」として崇められてきました。厳島神社は陸地では畏れ多いと潮の満ち引きするところに建てられています。旧暦八朔の日(8月後半)、その厳島神社の平舞台の先端・火焼前(ひたさき)から、そっと夜の海に送り出される手作りの飾り船「たのも船」。船たちは蝋燭のぼんぼりを灯し、おはぎなどを載せてゆらりゆらりひとつまたひとつ、海上の大鳥居の足元を抜け無数の灯りの点となって対岸へと流れ行きます。その姿はお盆の精霊流しにも見えますが、たのも船は「神の島」故に農耕が許されなかったことから対岸の農家に米や農産物をわけてもらっていたことへの、島の人々からの感謝の手紙なのです。40年程前までは、船は対岸の農地などに縁起物として供えられていたといいます。「たのもさん」は島の四宮神社の祭り。厳島神社の末社であることから、厳島神社で行われます。
取材・文:加藤正明
農耕を禁じられていた宮島の人々が、作物への感謝を表すため家族などで「たのも船」という小船を作り、団子のお人形・おはぎなどを乗せて対岸の大野町のお稲荷様に向けて流す民俗行事。お祓いの後、厳島神社そばの海辺から流される幾隻もの「たのも船」のかがり火が灯る風景は、宮島の秋の夜の風物詩となっています。
※出典:ダイドーグループ日本の祭り